さとう脳神経・メンタルクリニック
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がんと言われた時の心のケア

●がんと暮らす時代
 最近の統計によると、男性の2人に1人、女性の3人に1人は一生のうちどこかでがんにかかると言われています。そして、3.3人に1人はがんで亡くなります。世間では、がんイコール「死にいたる病気」というイメージが根強くあります。

  しかし、その一方で、半数近くのがんは治り、ルールを守れば、7割のがんは克服できるとも言われています。
  したがって、がんという病気といかに付き合って暮らしていくかが重要になってきています。

●最初、がんと言われた時
 がんと言われた時、ほとんどの人は大きなショックを受けます。
「告知の瞬間は、感覚が麻痺して何も聞こえず、感じられなくなった」と語る人もいます。

 その事実を認めず、あえて背を向けてしまう人もいます。がんと言われた人の中では、さまざまな心の動きが生じるのです。
  ショックや否認に続いて、置き換え(他の事柄に注意を向けて気持ちをそらそうとする)、怒り(なぜ自分が?)、取引(〜をするから命を延ばしてください。)、無感動(何も面白いと思えない。)、後悔・自責(検診を受けておけば良かった)、落ち込み、そして受容(病気を受け入れる)と変わっていきます。

●年数が過ぎても(実際の症例から)
 そういった心の動きが生じるのは、がんと言われて間もなくだけではありません。手術を受けて5年以上が過ぎて、医者から完治したと言われた後でも、不安症状が生じてくる場合もまれではありません。

 私が経験した症例を紹介しましょう。
  その症例は、50歳代の女性でした。40歳の時に乳がんが見つかり手術を受けました。手術でがん病巣は全て切除され、10年を過ぎた今でも再発の兆候は見られていません。
 しかし、47歳になった頃から、がんになるのでないかとの心配が出現し、皮膚に発疹が生じると気になり、食べ物が気になって食べられなくなったり、眠れなくなったりするようになりました。不安症状は次第にその範囲を拡大し、ごみを間違いなく出したかが心配になったり、戸締りがきちんと出来ているか不安で何度も確認したりするようになり、病院を受診しました。病院での診断は、不安障害、強迫性障害でしたが、症状の発現には、がんに関連した心の変化があったものと考えられました。

●体験談が役に立つ
 こういったがん患者の心のケアを考える時に、一番参考になるのは、実際にがんを経験した人の体験談です。
 「がんと向き合った7885人の声」という報告書があります。これは、がん体験者の悩みなどに関する実態調査の報告書で、厚生省の研究班がまとめたものですが、静岡県立がんセンターのホームページにも掲載されており、とても示唆に富むものです。それによると、がん患者の悩みの大半が、不安などの心の問題に分類され、がんの再発や転移への不安、将来に対しての漠然とした不安などが多数を占め、それは、治療から数年を経ても続いていると報告されているのです。

●体験者(サバイバー)が教えてくれること
 がんと診断されて治療を終えた人、あるいは治療を今も続けながら社会で暮らしている人を「サバイバー」と言います。
 初めてがんと言われ不安になっている人にとって、サバイバーの体験は、心の支えとなり、具体的な目標ともなります。私たち医療者にとっても、サバイバーの方々の体験は、がん医療において必要なものを教えてくれる貴重なものです。
 医学では、5年生存率などの統計の数字が出てきますが、それは大きな集団での数字であり、実際にその人がどうであるかを正確に教えるものではありません。
 サバイバーが教えてくれることは、すべての人はそれぞれ違うということであり、その人の態度が生き延びる可能性を左右しているということです。そして何よりも希望を失わないことが重要であるということも体験者が教えています。